優れた作品というもの

ウジェーヌ・イヨネスコという劇作家がいた。この人は歴史に名を残すレベルの人なんだけど、30歳くらいの時に英語の勉強でテキストを買ってきたら、それが面白かったので戯曲を書いて上演したりしてたら超有名になったみたいな人です。

英語のテキストの会話というのは、

「わたしはナンシーです」

「わたしはジョンです」

「わたしの夫はジョージです」

みたいな、自明なことを延々とやりとりするのが面白かったらしい。

わたしは最近、この人の全集を、全集といっても日本語訳で手に入りやすいものは一冊しかないのだけど、それを読んでいて、まあ、わけわかんねーなって感想だった。登場人物が意味のない矛盾した会話を延々とやっていて、なんなんだろうこれはという感じだった。

イヨネスコの多分一番有名というか、成功した作品は「椅子」というやつなんだけど、というかこれ以前は全然売れてなかったらしいんだけど、この「椅子」はめちゃくちゃに面白かった。そして「椅子」を踏まえたうえで他の作品を読み直すと新しい読み方ができるというか、初見ではなんじゃこりゃだったものの中に良さが見えてきて、こういう現象も面白かった。

ところでわたしがイヨネスコを手に取ったのも、辛抱強く読み終わったのも、いわば彼のネームバリューのおかげで、歴史的な作家であるというアレがあったからわたしは辛抱強さを発揮し、良さに到達したわけで、これが無名の人だったらここまで頑張らなかった気がするけど、そうやって見落としている様々なものが確実にあったということは悲しく思う。